最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)1603号 判決 1949年11月17日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人田辺恒之上告趣意第一点について。
しかし、原判決の所論指摘の部分は、被告人の本件犯罪の原因動機に関する事実に過ぎないものであって、もとより罪となるべき事実ではない。從って、仮りに被告人の本件犯行が所論金丙潤から教唆を受け又は同人と共謀して、したものであって、その結果裁判、檢察において、同人又は相被告人に比し不公平な取扱を受けたとしても、被告人の本件犯罪そのものに何等消長を来す理由はない。しかのみならず、該原因事実は原判決挙示の各証拠によってこれを肯認するに足りるから、原判決には所論の違法は毫も存しない。所論は結局事実審たる原裁判所の裁量に属する事実認定を非難するに帰着し上告適法の理由とならぬ。
同第二点について。
しかし、所論「家庭用主食購入通帳」は、一個人の所有権の客体となるべき有体物であるから、刑法にいわゆる財物にあたるものといわなければならない。從って、該通帳が本件被告人の配給物資を騙取せんがための手段であり、道具であるに過ぎなかったとしても、詐欺罪の成立を妨げる理由はない。されば原審が被告人の所為に対し食糧緊急措置令一〇條又は刑法一五七條二項を適用しないで、刑法二四六條一項又は同法一五五條一項等を適用したのは正当であって原判決には所論のような法令の適用を誤った違法はない。
被告人上告趣意第一点について。
所論の理由のないものであることは、弁護人上告趣意第二点について説明したところで明らかである。
同第二点について。
所論縷述するところは要するに事実審たる原裁判所の裁量に属する量刑の不当を主張するものであるから上告適法の理由とはならぬ。
よって旧刑訴四四六條に從い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)